幼児語、いつまで使わせる?──「まだ小さいから」と親が見落とす重要なこと

「まだ小さいから、○○させない」「そのうちできるようになるから」と話す親御さんに、これまで何度も出会ってきました。

もちろん、お子さんの成長に合わせて行動を促す姿勢は大切です。でも、「そのタイミング」は一体いつ来るのでしょうか?

今回はその一例として、「幼児語をいつまで使わせるのか」というテーマについて考えてみたいと思います。

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幼児語(赤ちゃん言葉)は、まだ舌や口の筋肉が発達していない乳幼児が発音しやすいように、音が簡略化された言葉です。たとえば、「ワンワン」「ブーブー」「まんま」「ねんね」などがそれにあたります。

このような言葉は、子どもが言語を発しやすくなるきっかけになり、「発音できた」「伝わった」という達成感を得ることで、言語発達を促す面もあります。特に、言語を発し始める前の喃語期(バブバブ・あーうーなど)には、大人が子どもの発音しやすい言葉で応じることで、会話の土台を築く助けになります。

ですから、赤ちゃんの頃に幼児語を取り入れること自体は、決して悪いことではありません。適切に使えば、言葉の発達にとって有益な側面もあるのです。

問題は、「いつまで幼児語を使わせるのか」、そして「大人がいつまで幼児語で話しかけるのか」です。

たとえば、幼稚園に通っている年齢の子どもに対して、「パチパチして」「たっちして(立って)」などの表現を大人が使っている場面を見かけることがあります。この年齢の子どもに対しては、「まだ発音できないから仕方ない」という理由ではなく、今までもそう話し続けてきたために、親が自然な成人語への切り替えができずに幼児語を使ってしまっているケースが多いようです。

しかし、子どもが言葉を話し始める時期というのは、まさに語彙のインプットのチャンスです。大人が「パトカー」「犬」「立ってごらん」など正しい言葉を使わないことで、そのチャンスを逃してしまっている可能性があります。

「くま」を「ふっぷっぷ」、「おちゃ」を「おっとう」としか発音できなかった私の子どもも、自分が正しく発音できないだけで、私の言葉を聞いて意味は理解していました。私は常に「お茶飲もうか」「くまさんだね」といった正しい語彙を使い続け、成長とともに自然と発音も追いついてきました。

重要なのは、「子どもが発音しやすいようにしてあげる」ことではなく、「大人が正しい言葉をインプットし続ける」ことです。発音を矯正する必要はありません。むしろ、子どもが間違った発音をしても、親が正しい言葉で返してあげることで、自然と語彙力が育ち、正しい言葉の習得につながります。

語彙は、「耳にした言葉」がストックされていくことで増えていくものです。大人が幼児語で話しかけてしまっていては、そのストックはいつまで経っても増えません。

中学生にもなって、自分のことを「○○ちゃん」と呼んでいたり、他人に「ママが」「パパが」と話す子どもを見かけることがあります。

もちろん、家庭の文化や個人差もあるかもしれませんが、第三者が聞いて恥ずかしさを感じるということは、社会的な場では適切でない可能性が高いということです。

また、「ママ」「パパ」は幼児語ではないとする意見もありますが、社会的・文化的な側面から見ると、やはり成長とともに「お母さん」「お父さん」、そして「母」「父」などに自然とシフトしていくのが望ましいとされています。

このような言葉の切り替えができなかった場合、大人になっても言葉の選び方に違和感が残ってしまうことがあります。これは子どもの責任ではなく、大人が切り替えのタイミングを与えなかった結果なのです。

私は「インプットされないものは、アウトプットされない」という信念を大切にしています。

「いつかそのうち覚えるだろう」と後回しにしていると、その「いつか」は永遠に来ないかもしれません。言語発達にはタイミングがあります。その時期を逃してしまうと、後になってから修正するのはずっと難しくなります。

発音が不完全でも構いません。大人がしっかりした語彙を使って話しかけていれば、子どもは確実に言葉を吸収しています。そして、成長とともに発音も整っていきます。

幼児語は、言葉の始まりを助ける優しい存在です。でも、それに頼りすぎると、子どもは語彙を増やすチャンスを失ってしまいます。

そしてもっと怖いのは、言葉の選び方が「社会性」として評価される年齢になっても、幼い表現が抜けないままでいることです。

「まだ小さいから」と守ることももちろん大切ですが、「今が切り替えのチャンスかもしれない」と立ち止まって見直すことも同じくらい大切です。

子どもが発音しやすいように気を遣ってあげることと、大人がいつまでも幼児語で話しかけてしまうことは別物です。

「成長に合わせて言葉を切り替える」という行為は、親にとっても勇気がいることです。でも、子どもの将来のために、「今、変える」という意識がとても大切なのです。言葉のインプットは、早ければ早いほどいい。そしてそれは、子どもの準備が整ってからではなく、大人が“変える決断”をしたときから始まるのかもしれません。

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