私の教育論の根底にあるのは、「インプットされていないものは、アウトプットされない」というシンプルな考え方です。特に小さな子どもにとって、学びの源となる情報は、ほとんどが家庭から得られます。社会に出ていない子どもにとって、親が教えることができる内容こそがその子の知識やスキルに繋がるのです。ですから、親が教えていないことを「できない」と決めつけてしまうのは非常に不公平です。
インプットなしには成果はない
どんなに優れた能力を持っている子どもであっても、その能力を発揮するには必ず何らかのインプットが必要です。例えば、子どもが漢字を読んだり書いたりできるようになるためには、まずその漢字を覚える過程が必要です。しかし、このプロセスがなければ、どんなに優れた才能を持つ子どもでも漢字を書くことはできません。
教育の基本は、まず子どもにインプットを与えることです。それは単なる知識だけではなく、考え方や問題解決の方法、社会的なルールやマナーも含まれます。これらがしっかりと与えられていない状況で、「どうしてできないの?」と問うのは、まるで種を蒔かずに木が育つことを期待するようなものです。
海外育児で気づいた「比較」の無意味さ
私自身、海外で子育てをしていた際、非常に印象的な出来事がありました。ある日、同じ年齢の子どもの親から、「漢字が書ける」「計算が早い」と私の子どもを褒められたことがありました。しかし、私の子どもは日本語を母国語として学び、日本の教育を受けてきた背景があります。一方で、相手の子どもは日本語が第二言語であり、家庭でも特別に日本語や学習に力を入れているわけではありませんでした。
その親は、私の子どもを褒めると同時に、彼女の子どもと比較してしまいました。そのとき、私は心の中で「お母さんが、その教育に力を入れていないからですよ」と思いましたが、口に出すことは控えました。教えもしないで結果を求めてしまうことが、どれだけ不公平で無理なことか、なぜそのことを親が気づかないのか不思議でした。
その後、その子どもが私の子どもに暴力をふるうという事件が起きました。その子どもは突然、ミニゴルフのクラブで私の子どもを叩いたのです。親は「ケンカだ」と思い込んでいましたが、私はその子どもが、「比較されたことで自分に劣等感を感じ、恨みの矛先が私の子供に向かってしまったのではないか」、また、その結果として、暴力的な行動に出てしまったのではないかと思いました。
親の努力と関わり方が重要
インプットとアウトプットは、切り離せない関係です。子どもが何かをできるようになるためには、まずその情報を取り入れる(インプットする)ことが絶対に必要です。それは学校での授業や家庭での学習だけでなく、日常の中での経験や親との対話、遊びの中での学びなど、様々な形で行われます。
しかし、教育においては、親が自分の子どもにどれだけ積極的にインプットをしているかという点が、子どもの学びに大きな影響を与えます。特に海外で育つ日本人の子どもたちは、現地の言語や文化、教育システムに適応するために、家庭での積極的なサポートが大切です。同時に、日本語や日本の学問にも触れさせる時間を持つことができなければ、日本の子どもたちと同じレベルで日本語ができるようになるはずがありません。海外での日本語教育では、特に学校で学べることができない分、親からのインプットが必要になってきます。
そのため、子どもに「できるようになってほしい」と願うのであれば、まずは親が自ら学び、サポートすることが最も重要です。子どもが新しいことを学ぶためには、親がその基礎を教え、導いてあげることが必要です。
比較せず、自分のペースで成長を支えよう
海外での子育てのエピソードを例にお話ししましたが、どこにいても子どもの教育の考え方としては共通しています。
他の子どもと比べることなく、子どもが成長するために必要なインプットを与えることこそが、親の役割です。子どもを他の子どもと比較してしまうと、その子が持っている独自のペースや興味を無視することになり、成長を妨げてしまいます。
私は、自分の子どもが他の子どもたちと競り合うタイプではなく、のんびりとした性格だということを理解しています。それでも、私は「他の子どもと競争することよりも、自分自身がどれだけ成長できるかを大切にしなさい」と教えてきました。競争は一時的な結果に過ぎませんが、自己成長はその子の人生を豊かにします。
親として大切なのは、子どもが自分のペースで最大限努力できる環境を作り、応援し続けることです。周りと比較するのではなく、子ども自身が成長できるようにサポートすることが、最も重要な教育です。
まとめ
インプットがあってこそ、アウトプットは可能になります。子どもに「できるようになってほしい」と願うのであれば、まずは親自身が積極的にインプットをし、その環境を整えてあげることが必要です。教えてもいないことをできるようにするのは無理ですが、親がしっかりと関わり、サポートすれば、子どもは着実に成長します。比較ではなく、応援の気持ちを大切にして、子どもの成長を見守っていきましょう。