日本語の変化と乱れ:美しい言葉を守るために私たちができること

カフェでスマートフォンを操作する高校生たち。会話やSNSを通じて現代の言葉が広がる様子を象徴するシーン
Table of Contents

私が学生だった数十年前、「辞書は8年ごとに買い替えなければならない」と聞いたことがあります。その理由は、言葉が時代とともに変化するからです。新しい言葉が生まれ、古い言葉が使われなくなっていく。これは太古の昔から続く自然な言語の進化です。

しかし、現代はその変化のスピードが異常なほど速くなっています。ネットスラングや外来語、カタカナ語や短縮された言葉の急増により、日本語はかつてないほどのスピードで変化しています。紙の辞書を何年かおきに買い替えるという方法では、もう言葉の変化に追いつけないかもしれません。

言葉の読み方の変化も、その一例です。私が中学生の頃、「重複」は「ちょうふく」と読むのが正しく、「じゅうふく」は誤りとされていました。当時の入試問題でも、「正しい読みを選べ」といった形で問われる定番項目でした。

ところが現在では、「じゅうふく」も一般的な読み方として認められています。むしろ「ちょうふく」という読み方を知らない人の方が多くなってきており、言語の変化を強く感じます。

これは「間違いがいつしか正解になる」例の一つであり、言葉は社会の中で多数派によって形作られていくことを実感させられます。

私が最近特に気になっているのは、助数詞の誤用です。「三分(さんぷん)」を「さんふん」、「四分(よんぷん)」を「よんふん」、「三匹(さんびき)」を「さんひき」といった読み間違いが、若い世代の間で一般化しています。

これは一過性のブームではなく、すでに「正しい言葉」として使われ始めているように見えるのが問題です。さらに衝撃だったのは、日本語を教える立場の先生までが、助数詞の正しい読み方を教えられていなかったという事実です。

助数詞は日本語特有の難しさを持っていますが、それゆえに日本語の繊細さや美しさを表す要素でもあります。こうした言葉が崩れていくのは、日本語の魅力が失われていくことにつながり、非常に残念に思います。

さらに驚いた経験があります。20年ほど前、私は英語のレッスンで「ten past eight(8時10分すぎ)」という表現を教えていました。「これは8時から10分経った時間、つまり8時10分を意味します」と説明したところ、なんだか生徒と噛み合わない感じが。なんと生徒たちは「8時10分すぎ」とは「8時10分を過ぎた時刻、例えば8時12分〜15分頃」だと理解していたのです。

最初は一人だけの勘違いかと思いましたが、他の生徒たちも同様の認識をしており、私は大きな衝撃を受けました。一人の生徒の母親(小学校の教員)は、「小学校でちゃんと教えてるはずなのに…」と困惑していました。

つまり、いくら学校で正しい知識を教えていても、それが家庭や社会で繰り返し正しく使われない限り、定着しないという現実を見せつけられたのです。そして、その間違った理解が周囲で共有されることで、あたかもそれが「正しい」情報かのように広まってしまいます。

今の時代、SNSやYouTube、TikTokなどを通じて言葉は一気に拡散します。一人の間違った言葉遣いが、フォロワー何万人という単位で広がっていく現代では、間違った日本語が「新しい常識」になるスピードも早いのです。

学校教育や家庭のしつけがどれだけ重要であっても、その影響力はSNSやメディアに比べて限定的です。子どもたちは、教師や親よりも、インフルエンサーや芸能人の話し方を真似する傾向が強くなっているように感じます。

私たちが美しい日本語を守るためには、ただ「間違いを正す」だけでは不十分です。むしろ、影響力のある立場の人々が、意識的に正しい日本語を使うことが必要です。テレビに出るタレント、動画配信者、アーティストたちが丁寧な言葉を選び、それを継続することで、自然と視聴者の言葉づかいも変わっていくでしょう。

また、日常の中で私たち一人ひとりが「正しい日本語を使おう」という意識を持つことも大切です。会話、メール、SNS投稿など、日々の積み重ねが、言葉を未来へつなげる力になります。

日本語はただのコミュニケーションツールではありません。日本人としての心や文化、価値観が詰まった大切な財産です。その変化をすべて否定するわけではありませんが、意味の混乱や乱れを放置すれば、日本語の魅力や伝統的な表現が失われてしまいます。

正しい日本語を守るためには、今を生きる私たち一人ひとりの努力と工夫が必要です。そして、その輪を広げるために、次世代への丁寧な言葉の継承を忘れてはならないと、私は強く感じています。

カフェでスマートフォンを操作する高校生たち。会話やSNSを通じて現代の言葉が広がる様子を象徴するシーン

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
Table of Contents